会社に友人が訪ねてきました。
一通りの世間話が終わったあとに「加藤は歯を気にする人だったから、歯ブラシにも興味があるでしょ?」と聞いてきました。
「とっても興味はあるよ。歯が悪いと健康にはなれないしね。また、歯並びも大事だと思うよ。
更に、僕は口臭にもうるさいけどね。」と答えると、カバンの中から何やら取り出し始めました。
出てきたのは一本の歯ブラシ。
見たところ200円もしないような、まっすぐなプラスチックの柄にナイロンの毛がついているホテルに置かれているような歯ブラシです。
彼いわく、「これは歯磨きペーストのいらない歯ブラシなんだよ。ある人がこれを僕に勧めたのでつかっているんだ。これで磨くと、磨いた後は歯がキュッ、キュッというほどきれいになるよ」
「ふ〜ん。じゃあ、ブラシにすでにペーストでもついているのかな」と答えると、「ペーストはついていないんだよ。この開発者はペーストは歯に良くないという考えでこれを開発したそうだよ。彼の考えはこうなんだ。」
世間一般の歯磨きにはたくさんの研磨剤がはいっていて、これが歯の象牙質をみがくことにより歯をキレイにしている。
つまり歯をやすりの粉で磨いているわけだ。
しかし、歯の表面の象牙質は歯を守るもの。
これを削ることは歯に良くないとの考えで、歯に傷をつけないで何とかきれいにできないものかと考え、これを開発したそうだ。
原理はこのブラシのナイロンの部分に歯をいためないような素材を練りこめ、これでブラッシングすることにより唾液と混ざりあって歯がきれいになるそうだ。
無論、ペーストは使わないから歯を磨いて、でてくるツバを捨てる必要はないんだよ。
つまり、開発者は唾液こそ最高のペーストであるという考えだよ。
しかし、これは職人でなければ作れない品物なので大量生産は無理とのこと。
このため歯ブラシ1本、1000円以上するのだけども、とても売れているそうだよ。と
「売れている?本当に?」私は、黙って聞いていましたが、実際心の中では開発者の気持ちはわかるけど、これは間違いなく売れてないと思っていました。
だって、想像してもわかるではありませんか?ペーストを使わず唾液で歯をキレイにするんです!」と言って誰がついてくるでしょうか。
だらだらとよだれをたらたらして誰が歯を磨くでしょうか?飲み込んでもいいといわれても、誰が飲み込むでしょうか?
確かに、これは体に優しい商品の一つかもしれないけども、これは単に開発者の思いだけの製品、つまりマーケティングをされずに開発された製品だと思いました。
もっと、その人の能力を周りでしっかりと支えてあげる人がいたら、もっと違った考えの製品ができたかもしれないのにと残念に思いました。
開発者というのはとかく自分の開発品にぞっこんほれ込み、世間が見えなくなるもの。
そういう、僕もこの類ですけどね。